美容室に行くと、美容師さんが手際よくハサミを操りながらカットしてくれますよね。
その姿に「自分のハサミと何が違うんだろう?」「あんなに高そうなのはなぜ?」と思ったことはありませんか?
実は、美容師が使うハサミ(シザー)は、一般的なハサミとは構造も素材も、目的もまったく違うのです。
この記事では、プロの美容師が使う“シザーの世界”をわかりやすく解説します。
道具を知ると、美容師の技術の奥深さがより見えてくるはずです。
1. 美容師用ハサミは「髪を切るためだけに作られた専門道具」
まず前提として、美容師用のハサミ(プロシザー)は、文房具のハサミや家庭用のヘアカット用ハサミとは根本的に違います。
最大の目的は、
「髪を傷めず、美しく切ること」
髪の毛は非常に繊細で、わずかな切り口の乱れでも枝毛やパサつきの原因になります。
そのため、美容師用ハサミは精密さと切れ味、耐久性を極限まで追求して作られています。
2. 一般のハサミとの違い
| 比較項目 | 一般のハサミ | 美容師用シザー |
|---|---|---|
| 用途 | 紙・布・雑貨など汎用 | 髪を傷めずに切る専用 |
| 刃の形状 | 直線的・鈍角 | 髪を逃がす微妙なカーブと角度設計 |
| 材質 | ステンレスや鉄 | 高品質ステンレス鋼・コバルト合金など |
| 価格帯 | 数百〜数千円 | 3万円〜30万円以上 |
| メンテナンス | 基本的になし | 定期的な研ぎ・調整が必須 |
| 精度 | ±0.1mm単位 | ±0.01mm単位で設計される |
つまり、美容師のシザーは「職人が髪を傷つけずに切るための精密機械」と言っても過言ではありません。
3. 美容師が使うハサミの種類
美容師は、1丁のハサミだけでカットしているわけではありません。
目的や技術に応じて、いくつかの種類を使い分けています。
① カットシザー(ベースカット用)
最も基本的なハサミ。
髪の長さを整えたり、形を作るために使用されます。
- 刃渡り:5.5〜6.5インチ(約14〜17cm)
- 特徴:真っすぐ切れるよう、刃が鋭く・力強く設計
- 用途:ワンレングス、ボブ、レイヤーなどのベースカット
カットシザーは「美容師の命」とも呼ばれるほど重要な道具。
その切れ味がスタイルの正確さを左右します。
② セニングシザー(すきバサミ)
髪の量を減らしたり、質感を調整するために使うハサミです。
片方の刃にクシ状の溝があり、一定の割合で髪を“間引く”構造になっています。
- すき率(カットできる髪の割合):10〜50%
- 用途:ボリューム調整、毛量のバランス調整、自然な束感づくり
最近では「ダメージを出さない」「引っかからない」ための滑らかな溝構造の高級モデルも増えています。
③ スライドカット用シザー(ドライカットシザー)
乾いた髪やスタイリング後の髪を“なでるように”カットするためのシザー。
刃が滑らかに髪を逃がすように設計されています。
- 特徴:刃先がカーブしていて、軽く滑らせても髪が切れる
- 用途:束感づくり、毛先の柔らかい質感出し、ドライカット
このシザーの登場によって、ナチュラルで動きのあるスタイルづくりが格段に進化しました。
④ ブレンディングシザー(質感調整用)
髪の量を減らすというよりも、ラインをなじませたり境目をぼかすためのハサミ。
「毛量を減らさずに質感だけ整える」ため、デザインの仕上げに使われます。
美容師によっては“ブレンダー”や“トリミングシザー”と呼ぶこともあります。
4. 材質の違いが切れ味を決める
美容師用シザーの多くは、ステンレス鋼やコバルト合金、ハイカーボン鋼などの高硬度金属で作られています。
一般的な家庭用ハサミがHRC(硬度)50前後なのに対し、
プロシザーはHRC58〜62と非常に硬く、耐摩耗性に優れています。
よく使われる素材の例
| 材質 | 特徴 |
|---|---|
| ステンレス鋼(SUS420など) | 錆びにくく扱いやすい。初心者用や練習用に多い。 |
| コバルト合金 | 切れ味が持続しやすく、軽量。高級シザーに多い。 |
| ハイカーボン鋼(VG10など) | 硬くて鋭い切れ味。上級者向け。 |
| パウダーメタル(粉末冶金鋼) | 精密でバランスが良く、近年の高級モデルに採用。 |
素材によって、
「切れ味の鋭さ」「持続性」「重さ」「音」「感触」まで異なります。
美容師はこれらを自分のカットスタイルや手の感覚に合わせて選びます。
5. 価格の理由:なぜ美容師のハサミは高いのか?
「美容師のハサミって10万円以上するって本当?」
――はい、本当です。
プロ用シザーの価格は安くても3万円前後、高いものだと30万円を超えることもあります。
その理由は以下の通りです。
① 職人による手作業の研磨・調整
1丁1丁、熟練したシザー職人が手作業で刃付けを行います。
ミクロン単位で刃の角度を調整するため、数時間かけて研がれることも。
② 高品質素材の使用
コバルトや粉末鋼など、一般の金属よりも硬く高価な素材を使用。
これにより切れ味と耐久性が格段に上がります。
③ 長く使うための耐久設計
安いハサミは切れ味がすぐ落ちますが、
高品質なシザーは数年単位で研ぎ直しながら使い続けられるよう設計されています。
中には10年以上愛用されるハサミも。
④ 手にフィットする設計
手の小ささ・カットの癖・指の長さまで計算して作られており、
まるで「オーダーメイド工具」のような存在です。
6. 美容師はどう使い分けているの?
多くの美容師は、5〜7丁ほどのハサミを使い分けています。
- ベースカット用(硬め)
- ドライカット用(柔らかめ)
- 質感調整用
- すきバサミ(複数種類)
さらに、お客様の髪質や希望スタイルに合わせて使うハサミを変えることも。
たとえば、
「髪が細い人には滑りやすい刃」
「クセ毛には逃がす構造の刃」
「直毛には喰いつく刃」
といった具合に、髪質診断×道具選びも技術の一部なのです。
7. シザーのメンテナンスも技術のうち
プロのシザーは定期的なメンテナンスが欠かせません。
- 1日終わりにクロスで拭き取り
- 月に一度のオイル注油
- 年に1〜2回、専門業者による研ぎ・調整
これを怠ると、髪を“つぶす”ような切り口になってしまい、仕上がりにも大きく影響します。
つまり、美容師にとってシザーは「使う」だけでなく「育てる」道具でもあります。
8. まとめ|美容師のハサミは、“技術を最大限に引き出す相棒”
美容師が使うハサミは、
単なる道具ではなく、技術と感性を表現するための相棒です。
- 高精度の刃付けによる美しい切り口
- 髪質に合わせた種類と素材の選択
- 職人の手で磨かれたオーダーメイドのような設計
それらすべてが合わさって、初めて“プロのカット”が成立します。
もし次に美容室に行ったときは、
美容師さんの手元やハサミの動きを少し観察してみてください。
その1本1本に、
何年もの経験とこだわり、そして信頼が詰まっています。


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